共有不動産の法律相談
よくあるご相談をまとめました
基本編
1 不動産の共有関係を解消するにはどのような方法がありますか
① 自分の共有持分だけを第三者(不動産業者など)に売ってしまう方法
② 全員同意の上、全体を売却して、代金から経費を差し引いた残金を持分割合で分 ける方法(共同売却)
③ 土地を分筆したり、建物を区分所有にしたりして、現実に分ける方法(現物分割)
④ 裁判所に競売をしてもらって、代金を分ける方法
⑤ 誰かが不動産全体を取得して、他の人に代償金を支払う方法(代償分割)
などがあります。遺産分割でも共有物分割でも基本的には同じです。以下で、各場合をもう少し詳しく説明しています。
2 遺産分割前の遺産共有の状態と、遺産分割でいったん共有にした場合や共同売買で共有になっている場合とで、分け方に違いはありますか。
はい、違います。遺産分割前の遺産共有の状態から不動産を分けるには、遺産分割協議を行います。話し合いがまとまらに場合は、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをします。調停でもまとまらない場合は、裁判所が審判を下し、最終的に解決します。
他方、遺産分割で共有にすることを決めた場合や、共同売却により共有になった場合は、共有を解消するには共有物分割を行います。協議がまとまらなかった場合は、地方裁判所へ共有物分割請求訴訟を提起します。和解ができない場合は、判決により、競売、現物分割、代償分割など分け方が決められます。
3 自分の持分だけ他の共有者の同意なしに売却することはできますか
はい。法律上は問題なくできます。不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要なことはもちろんですが、自分の持分を処分するのは自由であり、他の共有者の同意は必要ありません。共有持分買取専門の不動産業者さんが買い取ってくれます。
もっとも、売却が分かった後、他の共有者からクレームが来ることはあるでしょう。ただ、それは法律上のクレームではなく、事実上のクレームであり、自己の持分を処分したことで何か違法になるものではありません。あとは、不動産業者さんと残りの共有者さんで共有物分割の協議をしてもらうことになり、その過程で、クレームはなくなっていくのが一般です。
4 全員で協力して不動産を売却することはできますか
はい、全員の同意があればもちろんできます。不動産仲介業者さんに頼んで高値で買い取ってくれる買主を見つけて、売買代金から仲介手数料や測量費、残置物処分費用などの必要経費を差し引いて、残金を持分割合で分けるのが一般的です。ただ、共有者の一人が「もっと高く売れるはずだ」などと言って、なかなか売却先が決まらない、というようなケースもあります。また、共有者の一人が共有不動産に居住しているような場合は、共同売却に応じないこともあります。そのような場合は、判決もらって競売をすることになります。
5 競売をするにはどうすればいいですか
裁判所に共有物分割請求訴訟(遺産分割前の遺産共有の場合は、遺産分割調停・審判)を提起し、「競売して代金を持分で分けよ」という判決を取得します。その判決書(控訴などされずに確定していることが前提です。)を、裁判所の執行部(東京地裁は目黒の民事執行センター(民事21部))に提出して、競売の申立てをします。約半年~1年で、入札方式により最も高い金額を入れた人が落札し、代金を裁判所に納付します。裁判所が経費を引いて、残金につき、各共有者の持ち分に応じた金額を分配してくれます。
6 現物分割とはどのような分け方ですか
土地を持分割合に応じて現実に分けたり(分筆)、建物を区分所有建物に分けたりするなど、現実に物理的に分割をすることです。ただし、例えば土地が細分化されたり、土地の形が不整形となってしまったりして、価値が著しく下がってしまう場合や、公平さを害する場合などは許されません。なお、現物分割では価値の公平が実現されない場合に、金銭による補償と組み合わせる場合もあります(部分的価格賠償)。
7 代償分割(全面的価格賠償)とはどのような分け方ですか
共有不動産を特定の人(例えば居住者)に取得させて、取得者は他の共有者に代償金を支払う、という分け方です。不動産を取得する人には代償金を支払う資力(支払能力)があることが条件となります。例えば、不動産が900万円の価値で、共有者がABC3名おり(持分は各3分の1)、Aが不動産全体を取得する場合は、AはBとCに300万円ずつ代償金を支払うことになります。不動産の価値は時価評価が原則ですが、当事者間で合意ができればその金額を基準にします。合意ができない場合は、裁判所で鑑定をしてもらうことになります。
8 共有者の一人が不動産に居住して分割に応じない場合、どうすればよいですか
共有者の一人が共有不動産への居住を継続したい場合は、代償金を支払って、他の共有者の共有持分を買い取る(代償分割)のが原則です。しかし、居住者に十分な資力がなく、あるいは感情のもつれから、支払いを拒むことも少なくありません。
このような場合は、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起して(遺産分割前の場合は家庭裁判所への遺産分割調停・審判の申立て)、競売判決を求めることが有効です。居住者は、競売を避けるために、代償金の支払いに応じることがあります。金額が決まらなければ鑑定を行って適正公平な代償金を決めることになります。鑑定を行ってもその金額を支払う資力が居住者になければ、やむを得ず、競売判決をもらって、競売を申し立てることになります。
9 共有者の一人が不動産に居住して共有物を独占している場合、何か金銭請求はできますか。
はい、特定の共有者が自己の持分を超えて共有物を使用している場合は、他の共有者は、その独占者に対して、「自己の持分を超える使用の対価」について償還請求することができます(民法249条2項)。
たとえば、ABC(持分各3分の1)の共有建物(賃貸すれば賃料相当額は月額9万円相当)を、Aが独占使用している場合、BもCもAに対し、それぞれ月額3万円(=9万円×3分の1が、BCの持ち分に応じた対価)の使用料の請求をすることができます。
ただし、ABC間で事前に、「Aが無償で単独使用してよい」という合意(黙示の場合も含む)が成立していた場合は、使用料の請求はできません。
10 共有者の一人が不動産に居住して共有物を独占している場合、明渡しを請求することはできますか。
場合分けが必要です。
まず、共有者間で何らの定めもないのに、勝手に一人の共有者が共有不動産を独占している場合には、共有者の持分の過半数の決定で、別の共有者にその共有不動産を使用させる決定をすることができますので、過半数の決定があれば、現在の使用者の同意がなくとも、明渡しを請求することができます(民法252条1項後段)。
他方で、過去に共有者の持分の過半数の決定で、特定の共有者に単独使用権を与えていた場合は、改めて過半数の決定があったとしても、それだけでは明渡しを請求することはできず、現在使用中の共有者の承諾が必要になります(民法252条3項)。
11 弁護士費用はどのくらいですか
事務所により様々ですが、当事務所の弁護士費用は下記のとおりです。
①着手金 15万円と消費税 契約締結時
②報酬金
Ⅰ 持分を換価して得た金額の5%と消費税(*ただし、最低15万円)
例)2400万円の不動産(持分3分の1)を競売、又は代償分割で買い取ってもらい、800万円を取得した場合。800万円×5%=40万円と消費税。
Ⅱ 使用料を獲得した場合は上記に加え、獲得した使用料の10%と消費税
例)月3万円(年間36万円)で5年間分の使用料180万円を獲得した場合。
180万円×10%=18万円と消費税。
応用編
1 共有者の所在が不明の場合はどうすればよいですか
・まず、住民票を追跡するなどして、捜索をします。
・見つからない場合は、公示送達を利用して共有物分割請求訴訟を起こすことが可能です。公示送達とは、捜索をしても所在が不明の場合に調査結果を裁判所に報告して、裁判所の掲示板に訴訟提起の旨を掲示してもらい、これにより一定期間の経過で、訴状の送達があったとみなす制度です。相手が現れなくても訴訟が進められ、判決で、所在不明者の持分を取得したり、全体を競売したりできます。代償金の支払い方法は、例えば、法務局に供託をすることなどが考えられます。
・その他に、令和3年の改正で新設された、所在等不明共有者の持分の取得、譲渡の制度を利用して、所在不明者の持分を買い取ったり、不動産全体を譲渡したりすることも考えられます(民法262条の2、262条の3)。これについて詳細は、3,4で説明します。
2 共有者の中に認知症の方がいる場合はどうすればよいですか
・原則としては成年後見を申し立ててもらうことになります。そのうえで、成年後見人と話し合いをしたり、成年後見人に対し訴訟を提起したりします。
・後見申立てが何らかの理由で難しい場合は、その理由や遅滞により損害が発生するおそれなどを裁判所に説明して、特別代理人を選任してもらい、特別代理人宛てに訴訟を提起することが考えられます。
3 所在不明等共有者の不動産の持分の「取得」制度とは、どのようなものですか
裁判所に共有者の一人について住民票等の調査をしたが所在不明であることを認定してもらい、その所在不明者の持分を申立人が時価で買い取る決定をしてもらう制度です。申し立てから3か月以上の異議期間を置いて、所在不明者や他の共有者から異議が出なければ、買取決定が出ます。具体的な金額は裁判所が決定します。買取代金は法務局に供託します。
共有物分割請求訴訟は、共有者全員を当事者にしなければいけませんが(固有必要的共同訴訟)、所在不明者持分取得制度は、所在不明者だけを相手にすればよい、というメリットがあります。
ただし、他の共有者が「自分も不在者の持分が欲しい」として別の申し立てをした場合は、各申立人が持分割合に応じて、所在不明共有者の持分を按分して取得します。また、他の共有者が共有物分割請求訴訟を提起した場合は、その訴訟が優先し、持分取得の裁判の申立ては却下されます。
4 所在不明等共有者の不動産の持分の「譲渡」制度とは、どのようなものですか
共有不動産の「全体」を第三者に譲渡(売却)する際に、所在不明者の持分も含めて全体を売却できるように申立共有者に所在不明者の持分を第三者に譲渡(売却)できる権限を与える制度です。
第三者への全体売却が予定されている場合は、「3」で説明したように、いったん特定の共有者に取得させてから全体を売却するよりも、所在不明者の持分をそのまま直接第三者に譲渡(売却)したほうがスムーズであるため考案された制度です。